小川三江の日記

小説を書いています。皆様の感想をうかがいたいです。よろしくお願いいたします。

  濡れた枯れ葉の上を歩いて、僕は今日も駅へ。枯れた葉はしっとり水を含んだ土の上に落ちた椿や楡の葉、そして僕には名前のわからない木の、ギザギザの、灰白色の乾いて丸まった幾種もの葉で、それが公園の入り口まで敷き続いている。僕の一歩ごとに、足はくしゃ、カサ、と葉を踏み、また軽く蹴り上げ、次の脚を出す直前、枯れ葉の下の濡れた黒土に優しく包み込まれる。僕はその柔らかい感触の一歩ごとに歩みを止めたい誘惑に掴まれそうになり、そのたびに大きな抵抗感とともにもう一歩前に踏み出る。土は樹々の梢から空ののぞく、陽のあたるところでも濡れている。朝の霧が晴れる前、くるりと反った枯れ葉のすき間にしのび込んだ水の粒粒が、ゆっくり土まで下りていったのだと僕はアテもないことを想像する。出口の門から向こうには、不思議と一片の葉も落ちていない。僕は気になってその境のところで振り向くと、蛇行する並木、それを囲み薄暗い林をなす樹々の幾倍も大きい欅の木が一本、公園の林から突き出ているのを見た。都心の公園にあってひとつその樹は落ち着いた雄大さをたたえいていた。風が葉を翻すと欅は、ざあ、と大きな音とともに全身を銀と黄緑のゆれるモザイクとなす。ふいに音楽プレイヤーからの音がやみ、揺れる緑と銀の欅の葉から、幾千、幾万のムクドリの甲高い鳴き声が湧き立った。かまびすしい小鳥たちの囀りをたたえた風に輝く欅の樹を、僕は城だと思った。